就職はどんな会社でも、地方でも、息が詰まるような実家から離れられれば、どこでもよかった。
大学で海洋学を真面目に学んだから、できれば船舶とか海洋関連の会社に入り、しかも府中の自宅から通えない場所に勤められれば申し分ない。
仕事観、志なんてものは全く持ち合わせていなかった。
入社試験の会場に居合わせた応募者は、果たして何人が入社したのか、入社式当日そんなことを考えながら神田駅から三信船舶本社に向って歩を進めた。
本社1階の受付を訪ねると、受付の女性が応接室に案内してくれた。
応接室の扉を開けると、太ったオヤジ達が4人も居並んでいる。
「いらっしゃい」揃って一礼された。
訳も分からず一礼を返すと、社長がおもむろに語り出した。
「????」
鳩が豆鉄砲とはこういう状況を言うのだろう。
何が起こったか全く理解できない。
呆然としていると、続いて専務が書類を持って「辞令、貴殿を足立工場技術部に配属する」「ハァ・・・・・」偉い方4人に握手を求められ、肩を叩かれ、聞こえた言葉「以上で入社式を終わります」「えっ?な何に~。これ入社式だったの~」
つまり、同期入社は誰も居ない。私たった一人だけ。
応接室で辞令を渡されて、神田から足立区五反野の工場へ。
「はい、頑張ってネ」で送り出されました。
何だか脱力感に包まれながら、神田から足立の工場へ向った。