jyurin


趣味の野生キノコ採取は、もう30年にもなるから、それなりに知識と経験を積めた。
登山と違って、山道を歩くことはないので、道無き場所を歩き回るから、山で迷ったことも幾度かある。

初めて山で迷ったときにはパニックに陥り、焦りと恐怖で怖い経験をした。
無用に樹林を歩き回ったので著しく喉が渇き、携行した飲料はあっという間に底を突いた。
何とか戻ることが出来た時、一連の出来事を思い返し、恐怖の体験から教訓を得た。

焦らず、現状を冷静に把握して、帰還の方策を探り出し、無理せずにコツコツと踏み入った経路の記憶場所まで戻ればいいと知った。

何しろキノコ散策は足元を見て歩くから、周りの景色の記憶が無い。
山登りに比べて、キノコ採りの人が山で遭難することが多い所以だ。

幾度かの迷いの出来事も、初めの経験から得た教訓で、然程の苦労をすることなく乗り切ることができるようになった。
若かったころの往復6時間超を掛けての深山散策は、歳と共に出来なくなったから、近年は手軽な散策になって危険とは無縁のキノコ採りになった。


商売経営は深山散策に似たところがある。
未知の場所(マーケット)に踏み込んで、手付かずの市場で収穫を得るという活動は似ている。
深山に分け入るほど迷い易いから、幾ら収穫の夢が膨らんでも、迷ったら無理して進まずに元に引き返すことが肝要だ。

「どうも企てた経路と様子が違うなぁ」と感じたら、事業を元に戻すことが必要だ。
「こんなはずじゃない」と冷静さを欠いて突き進むと、取り返しがつかない迷子になる。