ガリレオの80%の売上が造反連中に奪われ、残る社員を眺めてみても、とてもじゃないが会社を存続させるような収益を作ることは期待できない。
事業の拡大を期して移った駅前の本社事務所の家賃だって賄って行くのは難しい。
私は眠れない日を幾日も重ねていた。
妻には「会社はダメかもしれないからイザの時の覚悟をしておいた方がいい。
自己破産して我家も手放すことになる」と告げた。
 
私は回生の手段が無いか、必死になって考えた。
本社事務所の移転を含め、会社の世帯を縮小して生き残る方法を考え続けた。
しかし後ろ向きな対策をどのように練っても、会社が抱えている借入金の返済が賄えない。
そんな日々を重ねながら営業に精をだしていた。
寸暇を惜しんで書店に通い回生のヒントを探し続けた。
一冊の本の一行が目に止まった。
柳生新陰流奥義書。そうだ今の立ち位置が振り下ろされる刃の真下にある。
ここは下がるのではなく一歩前に進んでみよう。
事務所の移転も、人件費のカットも、資産の売却も止めた。
自分の報酬だけカットして事業拡大に向けて仕切り直してみようと決意した。
 

 
防犯ショップをフランチャイズ展開するときに採用した店舗スタッフが騒乱に中で私に語り掛けてきた。
「社長、僕に営業の統括をやらせてください」といって来た。
私は涙が止まらなかった。
 
ガリレオを大切に考えてガリレオの未来に期待する社員がいたのだ。
体の中にある塊に火が付くのを感じた。
「よーし、もう一度やり直しだ。きっと再生してみせる。負けてたまるか!」
 
何度も何度も、毎日毎日、そのセリフが頭に浮かび、寝ても覚めても「負けてたまるか!」と叫んでいた。
 

紙一枚の厚さを定規で測ることはできないけれど、そんな薄っぺらな紙でも100枚、300枚と重なると、目で見ても3cmくらいとか、10cmくらいと厚みが分かるようになる。
人が積み重ねる「信用」は、そんな紙のようなもので、毎日、毎日、善行と努力を積んで約束を守りながら、紙のように重ねて行くものだろう。
一つの善行や、一度の努力や、一回の約束を守ること自体は、計ることが出来ないくらい些細な信用作りにしかならない。
でも100回、300回と重ねることで「あの人は信用できる」と言われるようになる。
 
折角重ねた紙でも、不注意で窓を空け放しにしておくと、強い風が吹いたときに紙は風に舞って飛んでしまう。
飛んだ紙は一枚一枚拾って、再び丁寧に重ねていくしかない。
信用も同じで、一度の約束違反という突風が吹いてしまうと、折角重ねた信用は全て飛び去ってしまう。
お客様との約束を違反をすれば取引は途絶えてしまう。
銀行との約束を違えれば、本当に資金に行き詰まったときに力になってもらえない。
だからいつも緊張して「義理を欠いている先はないか」「報告を忘れている先はないか」「明日の約束の準備はできているか」と気を抜かないように心掛けないといけない。
ちょっとした忘れ事で、自分としても些細な出来事だからと軽んじたことが原因で、思わぬ信用失墜を経験したことがあるから、こんな慎重な行動になったのかもしれないが、思わぬ突風だけは避けなくてはいけない。
 
 

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